大腸のおもな病気
大腸のおもな病気
大腸がんは、わが国のがん罹患数で1位、がん死亡数で2位の、とても多いがんです。
大腸がんは大腸の上皮細胞ががん細胞に変化することで起こります。がんは最初、小さいのですが、徐々に大きくなり、塊を作るようになります。更に進行すると、がん細胞が血管やリンパ管に入り込み、肝臓やリンパ節に転移したり、がん細胞が大腸の壁を貫いて腹腔に撒きちらされたりします。
明確な大腸がんの危険因子は年齢(50歳以上)と大腸がんの家族歴です。
大腸がん患者の約30%には遺伝的素因があると考えられています。
初期には無症状のことがほとんどですが、進行すると腹痛、血便、便秘、下痢、体重減少などの症状が見られます。
大腸がんはほとんどの場合、大腸カメラで発見されます。健診で便潜血が陽性となった方、腹痛、血便、下痢、便秘などの症状がある方、大腸がんの家族歴のある方、以前、大腸ポリープを治療した方、便通に変化があった方は、大腸カメラを受けるようにしましょう。
早期大腸がんの中でも、ごく早期で転移している確率が非常に低いものは、大腸カメラで切除し治療する(内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)ことが可能です。
内視鏡的に切除できない大腸がんで肝臓や腹膜などに転移をしていないものには手術が行われます。手術の前後に抗がん剤治療が行われることもあります。
切除ができない進行大腸がんに対しては抗がん剤治療が行われます。
根治的に切除ができない進行大腸がんに対しても、大腸が狭くなって内容物が通過できなくなる場合、手術が行われることがあります。
大腸がんは早期に発見すれば内視鏡的に切除できますので、早期発見・早期治療が大切です。必要な時は大腸カメラを受けるようにしましょう。
大腸の内側に向かって盛り上がる病変のことで、腫瘍性ポリープ(腺腫など)と非腫瘍性ポリープに分けられます。
大腸がんは、腺腫を介して発がんするという経路が最も多く、70-80%を占めるとされています(adenoma-carcinoma sequence, conventional pathway)。癌化のリスクは、腺腫が大きくなるにつれ徐々に上昇し、大きさが10mm以上では癌化率が10-25%と報告されています。
大腸カメラで大腸ポリープが発見されたら、内視鏡的に切除することが、将来の大腸がんを防ぐことになります。当院ではコールドスネアポリペクトミーという安全性の高い方法で大腸ポリープを切除しております。コールドスネアポリペクトミーで切除できる条件は、大きさが9mm未満、無茎性(ポリープに茎がないこと)、拡大観察で大腸がんの可能性が非常に低いこと、抗血栓薬(血が固まるのを防ぐお薬)を服用していない場合です。この条件に該当しないポリープの場合は入院施設を整えた医療機関へご紹介致します。
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性の炎症を起こす病気で、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。病変は直腸から始まり連続的に口側へと広がるのが特徴です。若年者に好発しますが、近年、高齢で発症する方も増えています。
主な症状は血便、腹痛、下痢です。おなかの症状以外にも、関節の痛み、皮膚病変などを合併することがあります。
症状、大腸カメラでの観察、病理検査(大腸粘膜の一部を採取して顕微鏡で診断します)、便や大腸粘膜の細菌学的検査などの結果を総合的に評価して、診断されます。
症状が落ち着き、内視鏡的にも炎症が治った状態(粘膜治癒)が治療目標となります。
軽症の場合には、病変に直接作用して炎症を抑える5-アミノサリチル酸(5-ASA)で治療されます。飲み薬の他に、液体や泡状の薬をお尻から入れる注腸薬や坐薬があり、炎症の範囲によって使い分けられます。
中等症の場合には、ステロイドが中心的な治療薬となります。ステロイドが効かない(ステロイド抵抗性)場合や、ステロイドが効くが、減量・中止すると再燃する(ステロイド依存性)場合を、難治例と呼びます。ステロイド依存性の場合、アザチオプリンが使用されます。最近、炎症を起こすリンパ球が大腸の壁に移動するのを防ぐα4インテグリン阻害薬のカロテグラストメチルが、ステロイドの導入前の選択肢に加わりました。
難治例には抗体の形をした治療薬(生物学的製剤:バイオ)やヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬が用いられます。
当院で行っているバイオ治療:ヒュミラ、シンポニー、エンタイビオ、レミケードなど
急激に悪くなった(劇症)場合、薬物治療でうまく治療できない場合、大腸炎に関連した大腸がんができた場合などには、手術で治療されます。
クローン病は消化管に潰瘍ができる病気で、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。小腸や大腸に好発しますが、食道、胃、十二指腸など、全消化管に病変が起こり得ます。肛門病変が多いのも特徴です。炎症が長く続くと腸が狭くなったり(狭窄)、穴が開いたり(穿孔、せんこう)、腸と腸、腸と膀胱、腸と皮膚などの間に通路ができることがあります(瘻孔、ろうこう)。10~20代の若年で発症することが多いです。
腹痛、下痢、発熱、体重減少、痔ろうなどがあります。
胃カメラ、小腸検査、大腸カメラ、CT検査、病理検査、肛門病変の診察により、潰瘍の形状や組織学的に特徴的は所見の有無で診断します。当院では小腸検査やCT検査を行えませんので、連携する総合病院をご紹介します。また、総合病院で治療を導入された後、ご紹介頂いて、当院で治療を継続する場合もあります。
症状が落ち着き、内視鏡的にも潰瘍が瘢痕化している(粘膜治癒)状態が治療目標となります。炎症を繰り返すうちに腸にダメージが蓄積して、狭窄、穿孔、瘻孔といった合併症が出ないように、病気をコントロールすることが重要です。
クローン病の治療は、栄養療法、薬物治療、外科治療があります。
栄養療法は、半消化態、完全消化態、成分栄養といった栄養剤を食事の代わりに飲んで炎症を和らげる治療です。薬物療法と同様に治療効果がありますが、普通の食事ができないなど、認容性に課題があります。
薬物療法は、重症度や病変の範囲などから適切な薬が選択されます。5-アミノサリチル酸、ステロイド、アザチオプリン、抗体の形をしたお薬(生物学的製剤:バイオ)、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬から選択されます。
当院で行っているバイオ治療:ヒュミラ、エンタイビオ、レミケードなど
腸がとても狭くなったり(狭窄)、腸に穴が開いたり(穿孔)、おなかの中に膿がたまったり(膿瘍)、腸と腸の間に通路ができたり(瘻孔)した場合には、手術で治療されます。
腸にがんや炎症などの病気が無いのに、おなかの痛みや便秘・下痢が何か月も続く病気です。とてもありふれた病気で、人口のおよそ10%の方がこの病気で悩んでいるとされています。
便秘と下痢を繰り返したり、腹痛を伴ったりします。便が固かったりウサギのフンのようにコロコロとしている期間もあれば、便器の中で形が崩れたり水分を多く含んでドロドロになっている期間もあり、おなかの痛みや違和感があります。
大まかに言えば、(1)腸が敏感になって小さな刺激を受けても大きな信号を脳に伝えてしまうこと、(2)信号を受けた脳が必要以上に重大な刺激として認識してしまい痛みや苦痛として感じること、(3)痛みや苦痛、不安感を感じた脳は腸の動きを強くしたり、もっと敏感にしてしまったりすることが原因です。具体的には、精神的ストレス、セロトニンの欠乏による不安感・内臓知覚過敏、ストレスホルモンであるコルチコトロピン放出ホルモンの過剰による大腸運動の亢進(強くなること)、オキシトシンの欠乏による内臓知覚過敏、腸内細菌の乱れ、粘膜透過性亢進(粘膜のバリア機能が低下すること)、粘膜微小炎症などが原因と報告されています。また、内臓知覚、粘膜透過性と関連する遺伝子によって過敏性腸症候群になりやすさも変わることも報告されています。さらに、食あたりなどによる感染性腸炎にかかった方のおよそ10%が過敏性腸症候群となるとされており、感染性腸炎後過敏性腸症候群と呼ばれています。
おなかの症状の原因になるような病気、特に大腸がんや腸に炎症が起きる病気が無いこと(または疑う所見が無いこと)を確認できて初めて過敏性腸症候群と診断されます。
熱が出る、関節の痛みがある、便に血が混じる、ダイエットしていないのに体重が減るなどの症状があったり、診察でおなかにデキモノを触れる、おなかに水がたまっているなどの所見があったりすれば、必ず血液検査、大腸カメラなどの検査を受けるべきです。また、50歳以上になって初めておなかの症状が出てきた方や血のつながった方に大腸がんがいる方なども大腸カメラなどの検査を受けることが推奨されます。
食事や運動の指導の他、薬物療法として消化管運動機能調節薬、下痢止め、便秘薬、整腸剤、高分子重合体、漢方薬、抗うつ薬、抗不安薬などが使用されます。食事については、脂質、カフェイン、香辛料を多く含む食品、牛乳、乳製品などは過敏性腸症候群の症状を起こしやすいので、控えるようにします。また、短鎖炭水化物(fermentable[発酵性]、oligosaccharides[オリゴ糖]、disaccharides[二糖類]、monosaccharides[単糖類]and polyols[糖アルコール], FODMAP)を多く含む食事を避けること(低FODMAP食)が良いとする報告もあります。FODMAPを多く含む食品として、小麦、タマネギ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつなどがあります。薬による治療は主な症状が下痢、便秘、腹痛なのかによって選択されますが、症状に合わせて薬の調整が必要なことも多いです。
便秘とは排便回数が週に3回以下、硬便または兎糞状便、排便困難な状態を言います。
プロゲステロンなどの女性ホルモンは腸の動きを悪くするため、50歳以下では男性よりも女性の方が便秘で悩むことが多いです。糖尿病では自律神経障害がおきて腸の動きが悪くなります。また、咳止めなどの抗コリン作用のある薬を飲むと腸の動きが悪くなります。
腹筋が弱くなって強くいきむことができないことや直腸・肛門の周りの筋肉がうまく協調しないことで便がうまく排出されません。
排便を我慢する習慣やその他の理由で直腸に便がある状態が長く続くと、直腸の壁が伸ばされてもその刺激を感じにくくなり、直腸で便が固まってしまいます。便秘患者の30%が当てはまるとの報告もあります。
大腸がんなどで便の通り道が狭くなっていたり、逆に腸が広がって(巨大結腸など)貯まりやすかったり、直腸・肛門を支える筋肉(骨盤底筋群)が弱くなって直腸が下に飛び出したり(直腸脱)すると便がうまく排出されません。
排便回数が少ない、または便が硬い
排便回数は週に3回以上あるが、便が残っている感じや出しにくい感じがある。
下剤で軟便や水様便になっても、強くいきまないと便が出ない
適度な運動やおなかのマッサージで便秘が改善することが報告されています。食物繊維の推奨摂取量は1日20g以上です。
便秘薬には、便に水分を多く含ませる薬(浸透圧性下剤)、腸の動きを促す薬(刺激性下剤)、腸の水分分泌を促す薬(上皮機能変容薬)、胆汁酸の吸収を抑えて便の水分を増やし腸の動きも促す薬(胆汁酸トランスポーター阻害薬)、漢方薬などがあり、便秘のタイプ、年齢、持病、内服薬などにより選択する必要があります。
排便回数が1日に3回以上ある軟便または水様便、急激な便意のあるものを言います。
アルコールは浸透圧が高く、腸の中に水分を引き込む働きがあるため、お酒を飲みすぎると下痢になります。
脂肪分は胆汁や膵液で分解されますが、分解しきれないと腸への刺激が強くなり、腸液の分泌が増えます。油脂を含む食事の摂りすぎや膵臓の慢性炎症により膵液の分泌が少なくなると、下痢になります。
牛乳や乳製品には乳糖(ラクトース)が含まれており、ラクターゼという酵素によって、グルコースとガラクトースに分解されて吸収されます。乳糖が分解されずに大腸まで移動すると、腸内細菌のエサになりガスを発生させるなどして、下痢の原因になります。
十分に火の通っていないお肉、卵、生魚などを介して、カンピロバクター、サルモネラ、病原性大腸菌、腸炎ビブリオなどの細菌が腸に感染して、腸液の分泌が増え、腸からの水分吸収が減り、腸の動きは強くなって下痢になります。
クロストリジウム・ディフィシル、結核、エルシニア、赤痢アメーバ、ジアルジア、腸管スピロヘータなどの感染があると、下痢が2週間以上続きます。
潰瘍性大腸炎、クローン病、腸管ベーチェット病といった炎症性腸疾患の他、好酸球性胃腸炎、顕微鏡的大腸炎(膠原線維性大腸炎とリンパ球浸潤大腸炎)などは腸に炎症を起こして、慢性下痢の原因になります。
膵臓に慢性の炎症が起きるなどして膵液の分泌が少なくなったりすると脂肪分を分解できなくなり、分解できなかった脂肪分が腸を刺激して腸液の分泌が増えて下痢になります。
下痢と便秘を繰り返すのが特徴です。
原因に応じて治療法が異なりますので、原因を突き止めることが大切です。対症療法として下痢止めの薬を使うことがありますが、感染性腸炎が原因の場合には下痢を止めることで細菌やウイルスが体の中に長くとどまってしまい、治りを悪くすることがあるので注意が必要です。