胃がんは胃粘膜の細胞ががん細胞に変化したもので、大きくなった胃がんは胃の壁を通る血管やリンパ管を侵し、肝臓や肺などの胃以外の臓器やリンパ節に転移したり、膵臓、大腸、腹膜へ直接浸潤したりします。日本では1年間に約12万人が胃がんと診断されており、男性で10人に1人、女性で21人に1人が生涯のうちに一度は胃がんと診断されています。

胃がんの原因

ピロリ菌感染、喫煙、糖尿病、塩分の過剰摂取などがあります。その中でも、ピロリ菌感染者の10人に1人が一生涯のうちに胃がんにかかるとされています。男性の方が女性よりもリスクが高いです。

胃がんの症状

初期には無症状のことが多いですが、進行すると腹痛、息切れ、黒色便、体重減少などがあげられます。

胃がんの検査

胃がんの発見には胃カメラ、胃バリウム検査を受けていただくことが大事です。特に早い段階（早期がん）での診断には胃カメラが役に立ちます。胃がんと診断された後に、CTなどで肝臓や肺、リンパ節への広がりなどを評価して進行度（ステージ）を診断します。

胃がんの治療

早期がんでは胃カメラを用いた局所切除（内視鏡的粘膜剥離術、ESDなど）や外科的な胃の一部または全部の切除で治癒が期待できることが多いです。一方で進行がんの場合には、手術、抗がん剤治療、放射線治療などの組み合わせで治療します（集学的治療）。

胃がんの予後

5年相対生存率は、がんが胃にとどまっていた方（限局）で96.7％に対して、遠隔転移の無い方（所属リンパ節転移または隣接臓器浸潤）で51.9％、遠隔転移のある方（肝臓、肺の転移など）では6.6％となっています。早期に発見することができれば高い確率で治りきること（治癒）が期待できるのに対して、肝臓や肺に転移するなど進行した状態で発見されれば治りきること（治癒）の可能性はかなり低いです。

胃がんを予防するには

• 胃がんの原因であるピロリ菌感染の検査をしましょう。

まずは、胃がんの原因であるピロリ菌に感染しているか検査しましょう。ピロリ菌を調べるためには、血液や尿を用いた抗体検査、便を用いた抗原検査があります。また、ABC検診では、ピロリ菌感染だけでなく胃粘膜委縮の広がりから胃がんのリスクについても調べられます。

• ピロリ菌感染を適切に除菌しましょう。

ピロリ菌が感染していることがわかったら、適切な方法で除菌治療を受けましょう。ピロリ菌の感染経路の多くは子供のころの家族内感染です。

• 胃がんを早期に発見すること（二次予防）

ピロリ菌を除菌できれば胃がんにならないわけではありません。ご自身の胃がんリスクに合わせて適当な間隔で胃カメラや胃バリウム検査による定期検査で胃がんを早期に発見することが大事です。早期発見できれば、適切な治療を受けることで高い確率で治癒が望めます。

胃ポリープ

胃ポリープには胃底腺ポリープ、過形成性ポリープ、特殊型（炎症性、症候性、家族性）がありますが、ほとんどは胃底腺ポリープか過形成性ポリープです。

胃底腺ポリープ

ピロリ菌が感染していない胃に発生するポリープで、胃がんに変化することはほとんどありません。一般的には切除はせずに経過観察となります。胃酸分泌抑制薬を長い間使用しているとポリープが大きくなったり、数が増えたりするという報告があります。

過形成性ポリープ

ピロリ菌が感染している胃に発生するポリープで、5％未満でがんに変化する可能性があり、1年ごとの胃カメラによる経過観察が望ましいとされます。ピロリ菌を除菌すると大きさが小さくなったり、消えてしまったりすることがあります。

胃や十二指腸の粘膜が傷つき粘膜の下の粘膜下層（ねんまくかそう）に達したのが胃潰瘍・十二指腸潰瘍です。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因

その原因の90％以上はピロリ菌感染または熱さまし・痛み止め・アスピリンなどです。みぞおちあたりの痛みの原因となり、特に食後や空腹時に痛みが強くなることが特徴とされています。

胃・十二指腸潰瘍の症状

胃潰瘍も十二指腸潰瘍も、治療せずに放置していると、潰瘍からの出血で便が黒くなり、貧血によるめまい、息切れ、ふらつきなどの症状が出てきます。胃や十二指腸に穴が開くこともありますし、急激に出血すると血圧を保てなくなりショックといわれる生命の危機的状況に陥ることもありますので、早期に発見して治療することが大事です。

胃・十二指腸潰瘍の治療

胃酸分泌抑制薬で治療します。ピロリ菌が原因の場合には胃酸分泌抑制薬の治療と同時または治療終了後にピロリ菌の除菌を行います。

ピロリ菌が感染するなどして胃粘膜に炎症がおこった状態が胃炎であり、その状態が長く続いたものが慢性胃炎です。慢性の炎症は胃の正常なつくりを変化させ、腺の配列は乱れ、密度は小さくなり、粘膜の厚さは薄くなります（胃粘膜委縮）。この状態を萎縮性胃炎といいます。萎縮性胃炎の原因には、ピロリ菌感染のほかに自己免疫性胃炎（A型胃炎）があります。

慢性胃炎・胃粘膜萎縮の症状

慢性胃炎ではほとんど症状を起こさないとされていますが、ピロリ菌を除菌した後に食欲が増したり、食事をおいしく感じたりする方もいます。胃の痛みやもたれなど（ディスペプシア症状）がある場合にはピロリ菌感染が確認されれば除菌治療を先に行うことが推奨されています。

胃粘膜萎縮の広がりと胃がんのリスク

胃粘膜委縮の広がりは胃がんリスクと関連していることが知られており、胃粘膜委縮が広がる前の若いうちにピロリ菌を除菌して胃がんリスクを最小限にとどめることが大切です。胃の炎症が進むと、胃粘膜には腸上皮化生という変化が起き、これも胃がんのリスクが高いことの目安になります。胃カメラで胃粘膜委縮の広がりや腸上皮化生の有無を見ることで胃がんリスクを知ることができます。

ピロリ菌とは

正式名称をヘリコバクター・ピロリといいます。胃の中は胃酸によって強い酸性となっているので、ほとんどの細菌は生き延びることができませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素をつくり、胃の中の尿素をアンモニアに分解してピロリ菌の周りのpHを中性にすることで生き延びることができる細菌で、胃がんの原因となります。

ピロリ菌の影響

ピロリ菌が胃に感染するとほとんどの方では胃に慢性的な炎症（慢性胃炎）を起こします。慢性胃炎が続くと、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃ポリープ、胃がんの土台となります。無症状のうちに病気が進行している場合もありますので胃がん検診を受けていただくことが大切です。ピロリ菌は、そのほかに胃のマルトリンパ腫や、特発性（免疫性）血小板減少性紫斑病の一部の原因となります。

機能性ディスペプシアは、胃もたれやみぞおちの痛みやもたれ、満腹感や灼熱感などのつらい症状を繰り返し感じることがあるのに、胃カメラや超音波検査などで検査をしても胃の異常が見つからない機能的な病気です。

機能性ディスペプシアの症状

胃のもたれや痛み、満腹感やみぞおちの灼熱感、げっぷや胸やけのような症状を起こすこともあります。様々な症状が起こり、症状は一定でなく、良くなったり悪くなったりを繰り返します。

機能性ディスペプシアの原因

胃や十二指腸の動きの悪さ、刺激に対する過敏性、精神的ストレス、胃酸の過分泌、ピロリ菌、感染性胃腸炎、生活習慣が原因となることがあります。

機能性ディスペプシアの診断

慢性的なディスペプシア症状があり、上部消化管内視鏡にて原因となる気質的疾患がない場合に診断されます。

機能性ディスペプシアの治療

胃腸の動きを良くする薬であるアコファイド®️にて治療します。

アニサキスとは、魚介類を介してヒトに寄生する寄生虫です。

アニサキスが寄生している主な魚介類

サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、イカ等の内臓表面に寄生しています。

アニサキスの人への影響と症状

アニサキス幼虫が寄生している魚介類を刺身などの生の状態で食べたり、加熱が不十分な状態で食べたりすると、アニサキス幼虫が胃や腸の壁に喰いついて、食後2～数10時間後にお腹の上の方が強く痛くなったり、気持ち悪くなって吐いてしまったりします。また、アレルギー症状として皮膚にじんましんが出ることもありますし、放っておくと胃や腸の壁に穴が開いて腹膜炎を起こして緊急手術が必要になったり、腸に喰いついた場合には腸閉塞の原因になったりすることがあります。

アニサキス症の治療方法

薬での治療はありません。胃に喰いついた場合には、胃カメラを行ってアニサキス自体を取り除くことが治療になります。腸に喰いついた場合には、それを診断すること自体が難しいですし、内視鏡で取り除くことも簡単ではありません。そのため、アニサキスが弱って腸から外れるのを待つことも多いですが、数日から1週間程度かかります。

アニサキス症の予防方法

• 新鮮な魚介類を選んで、買った後は早めに内臓を外します。その後、目でアニサキス幼虫を探して取り除きます。
• 刺身など生食する場合には、一度冷凍庫（-20℃）で24時間以上凍らせることでアニサキスを殺すことができます。
• 煮たり焼いたりする場合には、食材の中心部が60～70℃で1分間以上加熱されることでアニサキスが死にます。